研究概要

当部門では、超高磁場MRIを用いた次世代イメージング手法や解析手法の確立、脳神経・精神疾患の病態解明に取り組んでおり、以下のような成果を挙げた。

 

  1. 脳神経・精神疾患における脳形態解析とそのシステム化、及び高次脳機能・病態の解明
    (1) 独自に開発した共変量調節が可能な個別脳体積解析用のツールボックスを用い、2つの異なる健常データベース間で類似した脳萎縮パターンを描出することに成功した(佐々木・山下)
    (2) 早期プリオン病におけるMRI拡散異常域の自動定量化ソフトウェアにレポート機能を追加し、解析結果の視認性を向上させた。ソフトウェアにインストーラを追加し、各施設で容易に解析環境を構築できるようパッケージ化した。(佐々木・山下)
    (3) 多施設画像データの収集・解析のためのワークフローを最適化したウェブ・データベースプラットフォームを新たに開発した。(佐々木・山下)
    (4) 軽度認知障害者における白質病変体積とその経時変化と認知機能等の経時変化の関連を明らかにした。(山下)
  2. 拡散・磁化率MRIを用いた脳・心・精神疾患の早期診断・鑑別診断・脳微細構造変化の検出
    (1) 企業と共同開発した拡散尖度イメージングを用いて以下の研究を行った。(佐々木・森)
    ①小脳失調症における脳幹と小脳の微細構造変化の検出に成功した。特に、MSA-Cと他の脊髄小脳変性症(SCA/SAOA)の鑑別診断能は、感度と特異度ともに80%以上であり、高精度の鑑別診断が可能であることを明らかにした。
    ②ミニマル肝性脳症における大脳白質および基底核の微細構造変化を検出可能であることを明らかにした。ミニマル肝性脳症と非ミニマル肝性脳症の鑑別診断は、感度・特異度ともに80%以上であり、高精度の画像診断が可能であることを明らかにした。
    ③体外循環による心大血管手術後の一過性大脳白質微細障害を検出可能であることを明らかにした。
    ④産後うつ患者において大脳白質に微細構造変化が生じていることを明らかにした。
    ⑤機能性消化管障害患者において大脳白質に微細構造変化が生じていることを明らかにした。
    ⑥小児てんかん患者において運動野に微細構造変化が生じていることを明らかにした。
    ⑦心的外傷後ストレス障害患者において、大脳白質の神経線維束に変化が生じていることを明らかにした。
    (2) 拡散尖度イメージングと定量的磁化率マッピング(QSM)の解析技術を用いて、筋萎縮性側索硬化症における錐体路と中心前回の微細構造変化の検出に成功した。両者の組み合わせは、感度と特異度ともに80%以上であり、高精度の画像診断が可能であることを明らかにした。(佐々木・森)。
    (3)術前の拡散強調画像から得られた拡散係数(b値が0と1000 s/mm2、200と1500 s/mm2の組み合わせ)を用いて髄膜腫の固さ予測が可能であることを明らかにした。(佐々木・上野)
  3. 高解像度MR angiographyを用いた脳血管解析
    (1) 7テスラ高解像度MRAの数値流体力学(CFD)解析によって、レンズ核線条体動脈(LSA)領域の急性期非心原性脳梗塞患者における患側LSAの壁剪断応力(WSS)と壁剪断応力の空間勾配(WSSG)は、健側に比べて低値を示すことを明らかにした。また、LSA領域以外の脳梗塞患者におけるLSAのCFD指標(WSS/WSSG)は患側と対側で有意な差は見られなかった。(佐々木・森)
    (2) Leptomeningeal anastomosis (LMA)は従来のMRIでは捉えることが困難であったが、7テスラ高解像度MRAによって慢性脳虚血患者におけるLMAの半定量的評価を可能とした。また、LMAの発達の程度から、重症脳虚血の有無を高い感度・特異度で推定できることを明らかにした。(佐々木・上野)
    (3) 3テスラ高解像度MRAの未破裂脳動脈瘤のCFD解析によって、一般的に元画像として用いられるCTAによる破裂に関連するCFD指標を比較し、WSSとWSSGはCTAと良好な一致率と相関がみられ、3テスラMRAは脳動脈瘤に対するCFD解析に適用可能であることを明らかにした。(佐々木・森)
    (4) 3テスラ高解像MRAの血管炎を疑う患者においてflow void消失と考えられる血管内腔の異常信号を認め、CFD解析を用いて、flow voidの消失と血管壁における剪断抵抗との関係を明らかにした。(佐々木・森)
    (5) CEA術前の頚部頸動脈狭窄患者を対象にCFD解析を行い、最大狭窄部におけるWSS高値が微小塞栓の出現に関与していることを明らかにし、MRIプラークイメージング単体よりも高い精度で微小塞栓発生有無を予測出来ることを明らかにした。(佐々木・森)
    (6)血管壁イメージングを用いて、糖代謝・脂質異常患者において健常者に比して高頻度に血管壁にプラークを認めかつ、不安定プラークが一定頻度で認めることを明らかにした。(佐々木・森)
  4. MRIによる脳循環代謝解析
    (1) 独自に開発したQSMからの脳酸素摂取率(OEF)算出法を血行力学的脳虚血患者に適用し、頸動脈内膜剥離術(CEA)術前のQSM-OEFの患側/健側比がCEA術後過灌流のリスクのある患者を検出できることを明らかにした。また、アセタゾラマイド投与後のQSM-OEFの経時的変化はPETの脳血液量(CBV)および脳酸素消費量(CMRO2)と相関することを明らかにした。(佐々木・上野)
    (2) Intravoxel incoherent motion (IVIM)解析において、CBVを反映する灌流割合(perfusion fraction)を算出し、血行力学的脳虚血患者におけるperfusion fractionとSPECTによる血管反応性(CVR)との間に有意な負の相関関係があり、高い感度・特異度でCVR低下を検出可能であることを明らかにした。(佐々木・上野)
    (3)非侵襲的に脳血流量(CBF)を計測可能なArterial spin labeling(ASL)法で、CBFの計測精度向上を目的に、残存する血管内信号を抑制する技術を3テスラMRI装置に導入し、ファントム実験により最適な撮像条件を検討した。(佐々木・松田)
  5. その他
    (1) 多チャンネルラジオ波送信技術による局所送信磁場分布の改善技術の確立:7テスラMRIにおける送信磁場強度分布を高い精度で計測するために、actual flip angle imaging(AFI)法で正確に送信磁場を計測できなかった場所を検出・視覚化し、正確に送信磁場を計測するためのパラメターを決定する手法を開発した。(佐々木・松田)
    (2) ヒト以外の動物(サル)で温度を実計測することは非常に難しかったため、体重補正による鼻腔壁面モデルの開発をおこない、より正確な熱流体シミュレーションが可能になった。(森)